レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「ムガイはどこまで関わってる? あかるが殺された事件には? ムガイはあかるが殺された現場にいたと聞いた。もしかして、あいつがあかるを殺したのか?」

 僕の詰問に将軍は、「あかるというのは、聖女のことだね?」と訊いて、頷く僕を確認してから、

「ムガイ自身ではないだろうな。そんなことをすれば紅説王が気づいて、今さっきまで生きてなかっただろう。現に実行犯とされる者は、その場で王に殺されているからな」
「……そうだったんだ」

 人類皆を愛しているような、あの王が人を殺したのか。

 紅説王のあの行動は、あかるが死んだことや、あかるに庇われて死なせてしまったことだけに起因するわけじゃなかったんだな。多分、人を殺したことへの葛藤もあったんだろう。

 王は優しい方だから、憎む相手は人間じゃないと思えるほどの冷徹さは持てないだろう。
 その苦しさが、あかるを蘇らせることへと向った。そして、あかるが蘇れば、自分の罪も無くなるような、そんな気がしたのかも知れない。

 いずれにせよ僕は紅説王ではないから、本当にそうなのかは分からないけれど。

「でも……。じゃあ、さぞ焦っただろうな。あの頃、あかるは全人類の希望だった。聖女を求めたのだって、その象徴を手に入れて各国が優位に立ちたかったからだろ? 押し付けたとはいえ、研究も条国。成果も条国。聖女も条国じゃあ、列国の立つ瀬が無いから」

 僕はぶつぶつと独り言を呟いた。

「そして今度は、魔竜が操れると知ったからこその進軍だな。でもミシアン将軍、あなたの仰りようでは、反対する者も祖国にはいたみたいですね?」

 冷静に将軍に尋ねると、彼はどことなく満足げに笑った。

「いたよ。でも、押し切られたんだ。恐怖を煽られてね」
「恐怖? そうか。転移のコインを回収するという情報を流して、条国は各国と手を切って、魔竜を軍事転用させようとしていると反対派の連中を煽ったんだな?」

 なんて卑怯な。 
 ぎろりと将軍を睨みつけた。だけど彼は、「正解だ」とにこりと笑んだ。

 こんなにも母国を恥じたことはない。僕は憎悪を込めて、さっきよりももっと鋭く将軍を睨み付けた。

「私がしたわけではないよ」

 将軍は苦笑を浮かべる。
 そうかも知れないけど、でも、

「こんなことに加担してる時点で、貴方だって同罪でしょう」

 憎しみを込めたのに、彼は歯牙にもかけない風に微笑む。
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