レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
僕が連れて行かれた場所は、大広間だった。しっかりと閉じられていた障子を、将軍は静かに開けた。その瞬間、僕は息を呑んだ。
大広間には、手錠をかけられて座らせられている見知った顔がいくつもあった。
陽空、マル、そして何回か会ったことのある二条の者たちが十数人。その中には、火恋の両親である愁耶さんと悠南さん、そして彪芽さんもいた。
彼らはいずれも、消者石(しょうしゃせき)の手錠をかけられていた。
粉末状の消者石は一時的に能力者の能力を封じるが、岩自体を加工して手錠などを作り、能力者に密着させておけば、永久的に能力を封じ込める事が出来る。
だが、そうした道具はかなり高価で、軍でも数個しか取り扱えなかった。
それが、これだけあるということが、各国が手を取り合って条国を潰そうという明確な意思を物語っている。どっと嫌悪感が湧いて出た。
まさか祖国にこんな風な感情を持つ日が来るなんて、思ってもみなかった。
「よう、レテラ。生きてたか」
陽空が皮肉っぽく言って僕に笑みかけてきた。
僕は、くすっと笑って、「お前もな」と返す。でもすぐにトーンを落とした。
「アイシャさんは?」
「さあな。はぐれちまった」
陽空は微苦笑して首を振った。心配だろうなと思いながら、そうかと僕が返そうとすると、彼らを取り囲んでいた一人の兵士が、ミシアン将軍に噛み付くように尋ねた。
「ムガイは?」
鎧の色と腕章から察するに、ハーティム国の将軍だ。
「残念ながら亡くなったよ。戦死さ」
「なんだと!? 誰に殺された!」
ハーティム国の将軍は声高に叫んで、疑り深そうにミシアン将軍を睨みつける。
「さあ? 私が見つけたときにはすでに事切れていたので」
僕はちらりとミシアン将軍を一瞥する。将軍は残念そうに微笑した。この人は、かなりの嘘つきだな。きっと自分の気持ちですら、易々と嘘で覆ってみせるだろう。
「――チッ!」
ハーティムの将軍は、突然舌打ちをして僕を睨み付けた。
「では、そいつがルクゥ国の記録係か」
問われて、ミシアン将軍は大きく頷く。
「そうだ」
「本当に証言するのか?」
「誰だって死にたくはないさ。だろ、レテラ?」
ミシアン将軍は僕に向き直った。僕は突然話を振られて戸惑う。