レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「そうだよ。彼女の心臓を貫いたのは、私だ。彼女は、燗海に庇われ動揺していた。そこをね……。彼女は、即死させなければ、意地でも喰らいつき、死ぬまでに一人でも多くを殺そうとするだろう。初めて戦場で逢ったときから、そういう狼みたいな娘だったから。彼女を捕らえることは、不可能だったのさ」
「そうか……」

 僕は呟いた。それしか言えなかった。
 確かにヒナタ嬢はそういう人だ。息を引き取る間際まで戦い続けようとするだろう。だけど――。

「……燗海さんは?」
 全人類を探しても、彼に勝てるやつなんているわけがない。

「言っただろう? 人には弱点があるものだって」
 そう言ったのはミシアン将軍だったが、答えたのはハーティムの将軍だった。

「やつはてんで甘いやつだったよ! やられそうになったヒナタを庇い、負傷した! まあ、急所だったにも関わらず、すぐに治ったがな。召使の子供を人質にとったら、若い命には代えられないとか何とか言って、消者石の手錠を自らかけおったわ!」

 嘲笑しながら、ハーティムの将軍は鼻を鳴らした。

「もしかして、その子供って六歳ぐらいの子でしたか?」

 気がつくと、僕は質問していた。ハーティム国の将軍は訝しがりながら、「おそらくな」と言って、「それがどうした!」と再び鼻を鳴らす。

 僕は泣き出しそうになって唇を噛み締めた。
 燗海さんがおとなしく掴まったのは、きっとその子と娘さんが重なったからなんだ。

「その後はその子供もろとも、なます切りにして俺の剣の錆にしてくれたわ!」
「なんてことを……!」

 僕は愕然として、衝動的に掴みかかろうとした。だけど、

「テメエ! この野郎!」

 突然の罵声に、僕ははっと我に帰った。陽空が立ち上がろうとしていた。でも次の瞬間には、兵に押さえ込まれてしまった。

「燗海の爺さんはな! 本当にすっげーやつだったんだよ! 俺が羨ましいと思うほどに、剣術にも長けてて、それを鼻にも掛けない、優しい人だったんだよ!」

 陽空は悔しさに顔を歪めて、鋭くミシアン将軍を睨み付けた。
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