レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
陽空は、これだけの人が知ってれば情報もそれだけ入ってくるとかぬかしてやがったけど、情報は一行に入らず、僕はただただ恥ずかしいだけだ。
幸いなことは、噂話は王や殿下の耳には入らずにわりとすぐに沈静化したことだ。王は特になにも言わないだろうけど、(むしろ応援してくれるかも)殿下の場合は仕事で来ているくせにと小言を言われそうだ。
僕は時間が空く度に、それこそ町中を探し回ったけど、晃には今まで一度も逢えないでいる。
初めはもう一度笑顔が見たくて。そして、この気持ちが恋なのかを知りたくて捜していたけれど、途中から気づいてしまった。
僕は、晃が好きなんだって。
たった一度しか逢ったことがないのに。どんな子なのかも詳しく知らないのに。それでも、こんなに強く惹かれているなんて、自分でもどうかしてると思う。
「じゃあ。私はここで」
アイシャさんはそう言って軽く手を振った。
「報告がんばってね」
「はい。ありがとうございます。アイシャさんも〝道中〟気をつけて」
僕のジョークに、アイシャさんは「ふふっ」と笑って、
「そうするわ」と言った。
僕はアイシャさんと別れると、研究室へと向った。
研究室に入るや否や、煙が立ち込めていて、僕は咳き込みながら手で煙を払った。
煙の中でも二つの影がむせている。
「消(ショウ)!」
マルが呪文を唱える声が聞こえて、煙は途端にどこかへ霧散してしまった。
息を整えている紅説王とマルに声をかけると、二人は振向いた。
「レテラ、帰っていたか」
「はい」
僕は王に向って跪くと、王は、「そんなのは良い」と慌てたので、僕はすくっと立ち上がった。
「驟雪国の魔竜討伐、つつがなく終了しました。多分、もう驟雪国には魔竜は生息していないでしょう」
「そうか」
王は安堵したように息をつく。でも、少しだけその表情には影があった。
元々数が少なかった魔竜は、五年で絶滅寸前といって良いほどその数を減らした。
五年で三百頭は、さすがに狩り過ぎだった気がしないでもない。
でも、魔竜がいないに越したことはないんだ。絶対。
魔竜がいなくなって生態系が乱れるわけでもないんだし。でも、王はそれが気にかかるらしかった。優しい紅説王のことだから、魔竜に同情してるんだと思う。
青説殿下も、嫌みったらしく王に意見してたっけ。殿下はきついけど、おっしゃることは正しいことが多い。僕は、王よりも殿下の仰ることの方が理解できることが多かった。
「これで、魔竜が生息していると思われる国は条国と、水柳国だけだな」
「そうですね」
僕は頷くと、机に目を向けた。呪符らしき紙が置いてある。緑色で、赤い文字が書かれていた。
「それは?」
尋ねると、「ああ」と王が頷いたけど、嬉々として答えたのはマルだった。
「これは今開発中の呪符さ! 煙が出る仕組みになってるんだ」
「へえ。どうやって?」
「それはまだ秘密だよ!」
マルは口の前に人差し指を持ってきた。
この二人は本当に、秘密主義者だよなぁ。終わったことなら教えてくれるけど、経過途中のことは殆ど教えてくれたためしがない。研究者って、皆こうなのかな?
いずれにせよ教えてくれなさそうだから、僕は早々に話題を変えた。