レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
僕は陽空と燗海さんと、アイシャさんへの手土産を探しに街へ降りた。魔竜の討伐は早朝だったから、まだ午前中だ。まだ真上に達していない太陽を目を細めて見つめる。
ふと、隣で暢気な顔をしている陽空に視線を移した。
まじまじと陽空の顔を眺めていると、不意に本音が洩れた。
「それにしても、婚約とはねぇ。お前が」
僕の言葉に皮肉が含まれていることに気づいて、陽空は苦笑した。
「意外かよ」
「意外だね」
どうせ浮気すんだろと、僕は陽空の肩を小突く。
「どうかねぇ」
陽空は含むように言って微笑った。
「お前なぁ。アイシャさん泣かしたら許さないからな」
「ハハッ。まあ、当分はしねーよ」
「当分って、お前な」
呆れきって陽空を見ると、後ろからついてきていた燗海さんが、ほっほっほと、朗らかに笑った。
「まあ、浮気性の男は、嫁にするなら真面目な女を選ぶというが、子供が出来れば変わるじゃろう、君は」
「そっすかね」
陽空は照れたように笑んで、頭を掻いた。
いや、そこ別に照れるとこじゃないからな。
「本当、しっかりしろよなぁ」
僕は嘆息して、街に向き直る。
一時帰還するアイシャさんを、こっそりと祝うためにプレゼントを買いに出たのは良いけど、何を買ったら良いんだろう。
考え込んだ僕をよそに、陽空は突然弾んだ声を出して元気よく手を上げた。
「じゃあ、俺はここで!」
「は?」
訊き返した僕を無視して、陽空は意気揚々と街へ繰り出す。
「あいつ……」
絶対独身最後とか言って女の子ひっかけにいったな。
「では、ワシも」
「え?」
驚いて振り返ると、もう燗海さんの姿は消えていた。