優しい彼と愛なき結婚
「そうやってアンタは楽な道に逃げるんだな」
突然聞こえた声に、目を開ける。
私に顔を寄せたまま綾人さんも固まった。
「綾人。おまえも水無瀬がいながら、なにしてるんだよ」
そこに立っていたのは大悟さんだった。
「2人とも、恥ずかしくないのか」
淡々と吐き出される言葉。
しかしそこに込められた怒りの感情と、冷たい目が私たちを突き刺す。
「どうしておまえが…」
明らかに動揺している綾人さんの手からワイングラスが落ち、液体が絨毯に染みを作った。
「俺に隠れてこそこそと、これから何するつもりだった?」
怖い。
大悟さんが、怖い。
近くの椅子を蹴り倒し、土足のままベッドに近付いた大悟さんは落ちていたグラスを踏んだ。
バリバリと不快な音が響く。