優しい彼と愛なき結婚

しかし私は逃げなかった。

手の中にはまだ歩夢の写真がある。
私は綾人さんに手綱を握られてしまったようだ。


「大悟さんを好きになったので、結婚しました。綾人さんに恥をかかせるつもりはありませんでした」


「だから、どこが好きなの」


「優しいところです」


「無難な答えだね」


「……そうですね」


本当はもっと大悟さんの良いところを語りたいけれど、それを伝えたところで兄弟の仲が回復することはないだろう。

私なんかが、2人を結びつけることはできない。



「ワインが減ってないよ。口移しで飲ませてあげようか」


「……」


拒否してもいい場面なのだろうか。


「もっとこっちにおいで」


後頭部を引き寄せられ、綾人さんの唇に顔を寄せる。


「大人しくていい子だね」


そうだね。
私は最後まであなたの前ではいい子でしかいられなかった。距離の取り方や接し方を、いつから間違えていたのだろうね。



覚悟を決めてギュッと目を閉じる。
目から滴が溢れた。

こんな時に、大悟さんの笑顔が浮かぶ。



これから起きることを予期して、頭や胃が痛み出した。



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