優しい彼と愛なき結婚

あの日は紅茶を飲み、逃げるように帰ってきてしまった。

冷静に話し合おうと3日後、綾人さんが勤める会社の前で待ち伏せした。

もう少し考える時間が欲しいと伝えよう。


私にも、焦りすぎている綾人さんにも時間が必要なはずだ。


「綾人さ、」


定時の18時ちょうど、毎週水曜日にテニスクラブに通う習慣のある彼が会社から出てきた。

しかしその隣りに立つ女性を見て、咄嗟に人混みに紛れた。見知ったその女性に笑いかける綾人さんを見て、気付いてしまったから。

綾人さんは絶対に私とは水曜日に会わなかった。
今まで疑問に思わなかったけれど、本当にテニスクラブに通っていたのかすら…。

< 11 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop