優しい彼と愛なき結婚

近付いてきた足音に顔を上げたいが、荒く息をすることで精一杯だった。


「水、飲める?」


その声に振り返り、
横から伸びてきた手がコップを差し出してくれたけれど。


「大悟さん…」


歩夢ではないその人物に、声が震えた。


「飲みな」


口元にコップを近付けられ、されるがままに一口飲むと、今度は背中をさすってくれた。


「大悟さん!」

「まだ気持ち悪い?」


そこに居てくれるのが大悟さんか向き合って確かめたいのに、こみ上げてくる吐き気がそうさせてくれなかった。


「吐けそう?」


こんなところを見せたくはないけれど、今手を離せばまたどこかに行ってしまいそうで彼の腕を掴んだ。


強く強く、爪が食い込むほどに掴んだ。


「もう一口、水飲む?」


振り払うことはせず、大悟さんはしゃがみ込んだ。


< 130 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop