優しい彼と愛なき結婚
近付いてきた足音に顔を上げたいが、荒く息をすることで精一杯だった。
「水、飲める?」
その声に振り返り、
横から伸びてきた手がコップを差し出してくれたけれど。
「大悟さん…」
歩夢ではないその人物に、声が震えた。
「飲みな」
口元にコップを近付けられ、されるがままに一口飲むと、今度は背中をさすってくれた。
「大悟さん!」
「まだ気持ち悪い?」
そこに居てくれるのが大悟さんか向き合って確かめたいのに、こみ上げてくる吐き気がそうさせてくれなかった。
「吐けそう?」
こんなところを見せたくはないけれど、今手を離せばまたどこかに行ってしまいそうで彼の腕を掴んだ。
強く強く、爪が食い込むほどに掴んだ。
「もう一口、水飲む?」
振り払うことはせず、大悟さんはしゃがみ込んだ。