優しい彼と愛なき結婚
「月島家の事情ならあなたも知っているでしょう。外面だけがいい長男と、外で子供を作る夫、家事をしない妻。そして私は隠し子のことを知り、自棄になって無理矢理に執事と関係を持ったことがあるわ」
「え、」
「その場面を大悟に見られてね。大学生の大悟はこう言ったの。"俺は家族になんの期待もしてないから大丈夫"ってね」
苦しくてどうしようもなくて救いを求めたのかもしれない。けれどその場面を誰よりも愛おしい息子に見られていたと気付いた時、自身の愚かさを知ったことだろう。
私にはお母様を責める権利はない。
だって実際に綾人さんとホテルにいるところを大悟さんに見られたのだから。
「あの子はもう家族を作る気すらないのだと、冷たい目が語っていたわ。だから大悟を結婚する気にさせてくれた優里さんに感謝しているわ」
少し前なら後ろめたく思ったことだろう。でも気持ちが通じた今は、お母様の期待に応えられそうな気がする。
「いい奥さんになれるように精進します」
「そうしてちょうだい。そのお金は大悟のために使ってあげて。美味しいものを一緒に食べに行ってもいいし、旅行も良いじゃないの」
こんな風に言われるとは思っていなかった。
まさか借金を無かったことに…。
「でもやはりきちんとお返しすべきだと思います。それがけじめというものです」