優しい彼と愛なき結婚
そうだわ、とお母様は手を叩いた。
「結婚式の資金にするのはどう?」
「はい?」
「だってあなたたちはお金がなくて結婚式が挙げられないって言ってたじゃない。名案だわ」
「……お母様、借金を返さない限り、私は大悟さんと対等でいられない気がします。きちんと完済して、結婚式を挙げます」
「頑固ね。大悟にそっくり」
溜息をついて紅茶のおかわりを注いでくれたお母様には申し訳ないけれど、家族になれたとしても筋は通さないと。
「すみません」
「いいわよ。それにうちは誰にでもお金を貸すような家ではないわよ。真っ直ぐなあなただから、必ず返してもらえると分かってたからよ」
「…お母様……」
「ケーキでもどう?イタリアから届いたモンブランがあるのよ」
「いただきます」
当時の気持ちが蘇ってくる。
お金を借してもらった日、月島家に泣いてお礼を言った。
おばあちゃんを月島家に救ってもらったのだ。私は月島家に感謝をすることはあっても、嫌う理由はないのだ。