優しい彼と愛なき結婚
「それでどうして君がここに?」
「表通りの高級車はあなたの?随分と目立っていたよ」
「…それは失礼。じゃぁ、僕は行くよ」
綾人はちらりと私を見た。
見送りの言葉はいらないだろう。
「フリースクールの件だけどさ、」
副社長?
「あなたが大金を出して土地を買うというのなら、その倍のお金を私が出すよ」
「は?」
「社員が困っているのだから同然でしょう」
「社員って…」
綾人は私のこと興味がなかったし、就職した会社のことも話さなかった。綾人は私のことをほとんど知らないだろう。
「そういうことだから、よく考えた方がいいよ。桜野さん、早く行こう。遅刻するよ」
「は、はい」
呆けている綾人を残して副社長を追いかけた。
綾人の腕にはまだ水無瀬さんとお揃いの腕時計がつけられていて、少しだけ同情しながら、それでも私は後ろを振り返らなかった。