優しい彼と愛なき結婚

メールで指定された場所は格式の高いレストランではなく、会社から2駅程の居酒屋だった。

ガヤガヤとした店内の片隅に高そうなスーツを着込んだ副社長がいることが信じられない。
けれどどこに居ても副社長の纏う上品で洗礼された雰囲気は変わらない。


「どう?最近は残業もなく帰れてる?」

「はい。ほぼ毎日、定時退社しております」

「そっか。良かった」


強い目力に引き込まれそうになる。


「なにを飲む?」

「副社長は何にされますか?」

「私はビールかな」

「それではビール2つを…」

「いや、君は好きなものを頼むと良いよ」


メニューを開いて私に向けてくれる。
私があまりビールを好まないことを見透かされているようだ。


「今日は会社の部下を誘うというより、あなたに興味があって呼んだんだ」


興味とはどういうことだろう。


「変な意味でないからね。さぁ、好きなの頼んで」


「ありがとうございます。レモンサワーにします」


「了解」


ジャケットを椅子にかけてネクタイを外した副社長は店員を呼び、自ら注文してくれた。

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