聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

夫を無理やり引きはがしたグレイスは、改めていずみを紹介してくれた。

「こちら、聖女イズミ様よ。お役目を終え、うちの弟のもとへ嫁いでいらしたの。ご存知でしょう?」

「ああ。あの夜会の話なら小耳にはさんでいるよ。これは恥ずかしいところをお見せしました。初めまして、イズミ様。フランク・アルドリッジです」

ようやく正面を向いたアルドリッジ侯爵は、優しそうな顔をした人だった。アーレスよりも少し低いが百八十センチはあるであろう身長、面長で澄んだ春の空のような青い瞳。目尻には皺があり、レンガのような色の髪がオールバックに整えられている。年齢は五十歳前後だろうか。その年代の男性が熱烈に愛を語るさまなど初めて見た。
さすがは異世界……とわけの分からない感心をするいずみだ。

「はじめまして、侯爵様。突然の訪問、お許しください」

「いいさ。どうせグレイスが誘ったんだろう? 君が聖女と会ってただ帰ってくるなんて思っていなかったがまさか連れて帰ってくるとは」

「ふふ。さすがはフランクね。ねぇ、お願いがありますの。まずは中に入ってゆっくり話しましょう?」

今にも口づけそうなほど顔を近づけるふたり。

(……すっごいラブラブだなぁ)

若干引き気味に見ていると、アーレスがこそりと耳打ちしてくる。

「あのふたりはあれで普通なんだ。義兄上は姉上にぞっこんでな。並みいる求婚者をはねのけ、姉上を得てからも変わらぬ愛情表現に、俺はもうなんといったらいいか分からない」

新婚からずっとそうなのかと思うと、むしろ尊敬の域に入る。
ひとりの人を、そこまで一途に、しかも熱を冷まさずに思い続けるのは並大抵のことではないだろう。
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