聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「すごいですね。……でも分かるなぁ。お綺麗ですもん、グレイス様」
「……? イズミだって可愛らしいではないか」
さらりと流し歩いて行ったアーレスに、いずみは真っ赤な顔を見られていないか心配になった。
(し、心臓に悪いよ。なにこれ、さらって褒めるの何? 異世界の人ってこれで普通なの?)
容姿を褒められることなんてほとんどない。まして男の人になど。
それが大好きな旦那様からだとしたら、それはもう天にも昇る気持ちになってしまうではないか。
「イズミ様、こちらよ」
グレイスに招かれ、応接室のソファに腰掛ける。
そして、お茶とともに、山高帽をかぶった料理人が姿を現した。
「お呼びで、奥様」
「彼女にショウユとミソを分けてあげて欲しいの」
料理人が手に持ってきたのは、見まごうことなく醤油と味噌だった。
失礼して少し舐めさせてもらうと、懐かしい味にいずみの瞳に涙が浮かぶ。
「イズミ? どうした?」
「これです。これが欲しかったんです。ありがとうございます、グレイス様、アーレス様」
「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいわ。良かったらそれを使った料理法を教えてあげてちょうだい? うちの料理人たちもそんなにうまく使いこなせてないのよ」
「そうですね。簡単なのだと……」
とりあえずその場では、味噌とマヨネーズを混ぜたディップソースを教えた。
野菜をつけたり、クラッカーをつけてもいい。
「ん! おいしいわね。お野菜をこんな風に食べるの初めてかもしれないわ」