聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
*
屋敷についてから、アーレスは気もそぞろに執務室にこもった。
久しぶりに苦手な実家に向かい、あろうことか最も苦手とする姉とまで対面を果たした。アーレスは何気にてんぱっていた。戦いのさなかにいるよりも緊張して手汗が出たくらいだ。
そんな状況の中、いずみはよくやっていたと思う。
突然現れた姉に対しても、愛想よくふるまってくれた。
人嫌いなくせに人の下には立ちたくない姉は、女性を見下すような態度をとることが多いのだが、いずみに対しては世話を焼く気になってくれているらしい。
それはいいのだが。
「……贈るって何をだ……」
帰り際、姉から耳打ちされたのは、気の利かない愚弟への散々な悪口だった。
『あなた、妻となったイズミ様になんの贈り物もしていないのでしょう。なんて気の利かない男かしら。フランツ様は、婚約のときには部屋いっぱいの花を、輿入れの日は私のための庭を、結婚したときはたくさんの衣裳とそれを入れる衣裳部屋を、妊娠したときはかかとの低い靴と、別荘をくださったわ。他にも上げたらキリがないくらいに。あなたも伯爵位をもらったのならば、今まで通りでは駄目よ。ちゃんと妻を愛し、どこに出しても恥ずかしくないくらい着飾らせてあげないと』
気が利かないのは自覚している。
しかし、彼女に贈り物をと思っても、何も思いつかないのだ。
いっそ支払いはこちらに任せて彼女が勝手に買ってくれればいいのだが、いずみはそういうタイプでもないらしい。
屋敷についてから、アーレスは気もそぞろに執務室にこもった。
久しぶりに苦手な実家に向かい、あろうことか最も苦手とする姉とまで対面を果たした。アーレスは何気にてんぱっていた。戦いのさなかにいるよりも緊張して手汗が出たくらいだ。
そんな状況の中、いずみはよくやっていたと思う。
突然現れた姉に対しても、愛想よくふるまってくれた。
人嫌いなくせに人の下には立ちたくない姉は、女性を見下すような態度をとることが多いのだが、いずみに対しては世話を焼く気になってくれているらしい。
それはいいのだが。
「……贈るって何をだ……」
帰り際、姉から耳打ちされたのは、気の利かない愚弟への散々な悪口だった。
『あなた、妻となったイズミ様になんの贈り物もしていないのでしょう。なんて気の利かない男かしら。フランツ様は、婚約のときには部屋いっぱいの花を、輿入れの日は私のための庭を、結婚したときはたくさんの衣裳とそれを入れる衣裳部屋を、妊娠したときはかかとの低い靴と、別荘をくださったわ。他にも上げたらキリがないくらいに。あなたも伯爵位をもらったのならば、今まで通りでは駄目よ。ちゃんと妻を愛し、どこに出しても恥ずかしくないくらい着飾らせてあげないと』
気が利かないのは自覚している。
しかし、彼女に贈り物をと思っても、何も思いつかないのだ。
いっそ支払いはこちらに任せて彼女が勝手に買ってくれればいいのだが、いずみはそういうタイプでもないらしい。