聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
メイドも微妙な表情をしたが、時間もないことからこれ以上手を加えるのは諦めたらしい。

「ご案内いたしますわ」

と、迷いを振り切ったように顔を上げ、笑顔のままいずみを先導する。

(ある意味、このメイドさんもプロだな)

感心しつつ、いずみは若き国王が待つ部屋へとやって来た。

そこは天井の高い広い部屋だった。長いテーブルが置かれ、そのお誕生席にオスカーがいる。テーブルの上には料理のほかに食卓を彩る花も所狭しと置かれていた。

「ようこそ、聖女殿、こちらへ」

一瞬、顔をこわばらせたオスカーは、いずみをエスコートするべく立ち上がって近づいてきた。顔を浮かべながらも、軽く目はそらされている。

(直視したくないほど似合ってないのか! もういっそはっきり言ってよ。中途半端に気を使われるのが一番キツイよ!)

内心は傷ついたが、いずみは笑顔を取り繕ってかしこまる。

「恐れ入ります。国王様」

「オスカーでいいよ」

「では、オスカー様」

オスカーはまずいずみを席に座らせ、その後自分も向かいの席に着いた。同時に、側仕えによる給仕が始まった。

(……ん? 晩餐はふたりでということ?)

「あの、オスカー様のご家族は……」

神官の話では、父親な亡くなっているようだった。だが、まだ若い王様に、母親や妻はいないのだろうか。不思議に思っていずみが尋ねると、彼は少しばかり寂しそうに笑った。

< 14 / 196 >

この作品をシェア

pagetop