聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
まだ熱のある体で、思い切りフレデリックの頬を殴ったアーレスは、そのままガウンを羽織って部屋から出た。

「いってぇ。……って、どこに行くんです、団長」

「イズミを探してくる。ちゃんと話をしないと」

「でも熱があるんでしょう? 部屋がどこか教えていただければ、俺が連れてきますよ、ここに」

フレデリックはそう言うが、彼女のことを人任せにする気はアーレスにはなかった。もしも彼女が泣いているなら慰めるのは自分でありたいし、泣かせている内容が自分のことだというならなおさらだ。

「お前になど任せておけん」

冷たく言うと、アーレスはフレデリックを冷たく睨みつける。それは、彼を庇って怪我をしたときにさえ見せなかった、怒りの表情だ。

今までさんざん叱られてきたが、こんな顔は見たことが無い。
フレデリックは不意に理解した。
アーレスはこれまで、自分や騎士団全体のことを心配していただけなのだと。
決して自分の感情で、こちらに八つ当たりをしてきたわけではなかったのだ。
そして彼が本気で怒ったとき、これまでの説教など比べ物にならないほど恐ろしいということも。

「言っておくがな。俺は、ミヤ様のことを尊敬している。これが恋情だと思っていた時期もたしかにあるが、今は違うと分かっている」

「団長」

「俺が愛しているのは、イズミだけだ」

はっきりと言い切り、フレデリックを部屋に残してアーレスは立ち去る。

「やべぇ、かっこいい。これが純愛ってやつかぁ。……なんだよ、羨ましくなっちゃうじゃん」

殴られた頬をさすりながら、フレデリックはしみじみと言う。
女運が悪い彼の幸せは、まだまだ遠い。
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