聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

まだ熱が下がらないアーレスは、視界が軽くゆがむのを感じていた。
いずみにあてがわれたのは、おそらく賓客を迎える際の客室だ。北側の三階にあり、階段を下りれば、城と繋がる渡り廊下の入り口がすぐにある。
アーレスの部屋に与えられた部屋も、医師の出入りを楽にするために北側の一階にあるため、階が違うだけで位置は近い。
階段をのぼりながら、アーレスはガウンのポケットにある、髪飾りを確認する。

(いい機会だ。ちゃんと話そう)

アーレスはもともと話ベタだ。社交好きなバンフィールド伯爵家の中でも異端児と言える彼は、ひと言が三倍になって返ってくるような家庭環境で、余計なことは言わない方が楽だという感覚を身に着けてしまっていた。

だが、誰に対してもそれでは駄目なのだ。
どんな人生を送り、今どんな気持ちでいるのか。それをいずみに知ってもらい、そして伝えなければならない。
いずみのことを、どう思っているのか。ミヤさまへの気持ちとは根本が違うということも。
扉の前で一度深呼吸をし、ノックをして戸を開ける。地味な服装の女性が室内を歩き回っているのが見えた。が、それはいずみではなかった。

「……ジナ?」

「あっ、アーレス様。イズミ様がどこに行ったかご存じありませんか?」

「いないのか?」

不安で胸がざわついた。荒く息を吐き出しながら、アーレスは自分の中に焦りを感じる。
いずみが行ける場所など、そう多くはない。
ましてこの騎士団宿舎は男ばかりだ。自分の妻だと知っていて手を出してくるような輩は騎士団にはいないと思うが、聖女ということで興味を持っているやつは大勢いるだろう。フレデリックのようなタイプの男なら、無遠慮に話しかけに行くのではないか。
聖女の能力がないことを気にしている彼女に、そんな好奇の目は向けたくなかった。
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