聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「バカ言わないで。私なんかと聖女様が友達になんてなれるわけないでしょう?」
「どうして? あなたは私を助けてくれたわ。私もあなたを助けたい。そう思うのは駄目?」
エイダはしばらく眉を下げて困っていたが、やがて根負けしたように笑い出した。
「そんなこと言う聖女様初めて見たわ」
「だって私は出来損ないの聖女だもの。でもそのおかげであなたが笑ったくれるなら、それでもいいわ」
「……イズミ様」
感動をあらわにして、エイダがいずみに抱きつく。微笑ましくそれを見守っていたアーレスは「では俺は、阿呆の叩きなおしに行ってくる」と言って部屋を出て行った。
「叩きなおし……?」
「見に行きましょうか。フレデリックさん、殺されちゃうかも」
顔を見合わせたふたりは、アーレスを追うために部屋を出る。しかし、どんな速さで移動しているのか、すでに廊下にアーレスの姿は見えない。ふたりはアーレスもしくはフレデリックを見つけるために、一緒に騎士団宿舎内を走り回った。
ふたりとも、運動が得意な質ではない。すぐに息が上がって、目だけで疲れた意を伝えていく。
同じようなタイミングで歩を緩めると、ふいにおかしくなってきて、どちらからともなく笑い出す。
「あはは。あーなんか、スッキリしてきちゃった」
「そうですか?」
「うん。男より女同士の友情ってのもいいですよね。本当にイズミ様のところに遊びに行ってもいいんですか?」
「いいわよ。いつも新しい料理を練習しているから、エイダさんの手が空いたときにでも来て、手伝ってくれたらうれしい」
「やったー」
エイダの屈託のない笑顔に、いずみの心もほころぶ。
グレース様に言われた貴族とのお茶会にはまだ自信がないが、こうして友達を作ることは徐々にできている気がする。少しずつでもこの世界に自分がなじんでいる自信が湧いてきた。