聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「で、エイダさんはどうしたいの?」
アーレスがいきり立ってフレデリックを半殺しにしてしまう前に、いずみは釘を刺すつもりで聞いてみる。
「どうって?」
「フレデリックさんを殴りたいなら、アーレス様が代わりに殴ってくれるわ。復縁したいのなら、落ち着いて話し合いをするところからだと思う。ただ泣きたいだけなら私が気が済むまで付き合うわ。どれがいい?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、エイダはきょとんとしていずみを見つめる。
「私……そんなことは何も考えてなかったわ。ただ悲しくて……、でも話したら少しだけスッキリしました」
「うん」
「フレデリックとの未来なんて、本当はないってわかってた。それに、そんなことを言うような人と、一生暮らせるわけないって思うわ。父さんみたいな、ひとりを一途に思う相手じゃなきゃ、私の人生を預けたりできないもの」
「そうね」
「ただ、私。……そう、明日からひとりだって思うと寂しいの」
エイダはようやく本音にたどり着いたというように、ぽつりと言った後、今度は泣き叫ぶではなく、静かに涙をこぼした。
いずみは彼女の手を握り、ゆっくり優しく語り掛ける。
「じゃあ、明日は私と約束しましょう。作りたい料理があるの。エイダさんが手伝ってくれると助かるわ。なにせ私は、オーブンひとつ扱えないんだから」
「イズミ様」
「そして友達になりましょう? たまのお休みは約束をして、一緒に出掛けたり、お茶を飲んだりしましょう。どうかしら? 明日が楽しみにはならない?」
エイダは一瞬顔を上げ、しかし頑なに首を振った。