聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

(この人がいい。結婚するなら、この人のもとに行きたい)

これまで、無意識に感情を抑圧していたのかもしれない。そう思ったとたんに、涙がぶわっと沸き上がってきた。

そして別室にと連れ出してくれた彼に、言ってしまったのだ。

「私をもらってくださいますか」……と。

まあ、聖女の願いを騎士団長がはねつけられるわけはなく、いずみは晴れてアーレス・バンフィールドの妻になることになったのだ。

(まあ、私は晴れて……だけど。アーレス様にはどうだったのかなぁ)

これまで僻地で辺境警備にあたっていたアーレスは、縁談と同時に爵位をいただき、王都にほど近い領地を得たのだそうだ。そこは馬で二時間ほどで行ける土地らしい。
ただ、そこに住んだら王都に通うのが大変なので、タウンハウスも買ったのだという。
半端ない出費だ。それがすべて自分のせいだと思うと、いずみはいたたまれない思いがする。

(それに、こんな逞しくて格好いい人が、旦那様になってくれるなんて私は幸運だけど)

アーレス・バンフィールドはとても大きな人だった。身長は四十センチは上だろう。腕もいずみのそれより三倍くらい太い。彼女が知る、どの男性よりも逞しい体をもっていた。

やがて、馬を引いた侍従がやって来た。アーレスは手綱を受け取ると、「屋敷はそう遠くないから」と朗らかに笑った。

(もしかして、馬でいくのかな? 私、乗馬ってしたことが無いんだけど)

出来ないことは早めに伝えようと思って話すと、「おとなしくしていれば落とされることはない」と軽く流された。
< 45 / 196 >

この作品をシェア

pagetop