聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
そして次の瞬間、いずみは、アーレスに腰を掴まれ、ひょいと馬の鞍の上に抱え上げられたのだ。

「え、わっ」

「じっとしてるんだ。大丈夫、この馬はおとなしい」

鞍に横座りさせられたいずみは、おずおずと毛並みを触った。

(馬の背って意外と高いんだ。それになんかあったかい。やっぱり生き物なんだなぁ)

時折馬の鼻息が大きく聞こえるので、機嫌を損ねてはいないかとビビってしまう。
いずみが黙って硬直していると、「ちょっと揺れるぞ」と、アーレス様が後ろに飛び乗ってきた。

「きゃ」

「大丈夫。俺に捕まるといい」

お腹に手をまわされ、ぐいと引き寄せられた。そのせいで彼に横向きに抱きしめられたような状態になる。
落ちないように回された両腕は筋肉で盛り上がっている。

(ま、まるで、ペンギンの卵にでもなったみたい)

すっぽりと彼の腕の中に納まってしまい、いずみのドキドキは止まらない。
どちらかといえば内向的なうえ、職場的にも女性が多かったいずみは、男性経験がない。ましてこんな逞しい男の人に抱きしめられることなんて、人生初だ。

(この世界じゃすでに年増と言われる年齢のようなのに、この程度のことで今更恥ずかしがっているの、馬鹿みたいじゃないのかな)

常識が分からないだけに、不安は尽きない。
まだ出会ったばかりだし、彼は不承不承で自分を娶っただけで、愛情も何もないだろう。
それでも……。

(彼には嫌われたくない……なんて思うのは、おかしいかな)
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