聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
そろそろ突っ込む気力が無くなり、しかしその新しい料理は気になったので、アーレスはジョナスが油断した瞬間を狙って、皿からコロッケを奪い取って一口食べた。

(うまい。冷めてはいるが、コショウの風味も聞いているし、表面はサクサクしている)

「あっ、旦那様。それは俺のですぞ!」

「ケチケチするな。お前ならまた作れるだろう」

「こんなのレシピがなきゃ作れません!」

「落ち着いてくださーい!」

いつになく、ジョナスが不敬に食いついてくる。双方の頭に、食い物の恨みは恐ろしいという言葉が躍った。
ふたりの言い合いを止めたのはいずみだ。

「ジョナスさん、病み上がりなんだから興奮しないでください。レシピは差し上げます。その代わり、私にたまに厨房に立たせてほしいんです」

「なんだと?」

「私、料理研究家なんです。新しいレシピを考案するのが大好きなんですよ」

「ほう? そりゃあいいな。他にもあるのか、俺の知らないレシピが」

ジョナスの興味は、すっかりいずみにうつっている。そして、アーレスはそっちのけで交渉が始まった。
それを見ているアーレスの眉間に、再び深いしわが寄る。

(おいおい、主人は俺だぞ。最終的な許可は俺から出るんだぞ? ふたりとも分かっているか?)

「つまり、嬢ちゃ……奥様は俺の仕事を取る気はないってことだな?」

「ええ。大量の料理を作りたいわけじゃないんです。私は体に優しいレシピを作りたいだけなので」

「体に優しいとは?」

「人の体を作るのは食事です。だから体にいいものを進めていきたいんですよ。例えば、腹痛だったジョナスさんには今日のエンドウ豆のスープがおすすめです。ぜひ飲んで早く元気になってください」

「お、おう」

物腰はいずみのほうが丁寧なのに、ジョナスが押されてきた。
そしてついに、「よしわかった。奥様の使いたいときに厨房を貸してやろう」となぜか偉そうな物言いで許可を出す。
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