エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~

 駅に向かって必死になって早足で歩く。我慢はしているが鼻の奥がツンと痛い。どうにか泣かずに家までたどりつきたいが、無理かもしれない。

 俯いてひたすら足を動かす。

 背後から「松風」と自分を呼ぶ声が聞こえた。ここでそう呼ぶのはひとりしかいない。声が聞こえるところまで来ていると言うことは、日菜子の足ではどう考えても追いつかれてしまう。慌てた日菜子は角を曲がるとビルとビルの間に身を潜めた。

 こんな状態のまま会いたくない。必死にそう思い身をかがめる。どうにか気づかずに通り過ぎて欲しい。

 その願いもむなしく頭上から「いいかげんにしろよ」という怒りがはらんだ拓海の声が聞こえてきた。

 目を開くと彼のストレートチップの綺麗に磨かれたつま先が目に入る。見つかってしまったという落胆とともに、悲しみと怒りが日菜子の心の中に渦巻く。


「なんでいきなり逃げるんだよ。何が気に入らなかったんだ」

 その口調は決して日菜子を責めるようなものではなかった。それよりもむしろ心配の色が見て取れた。

 しかし日菜子からすれば、どうしてそこまで優しくされるのかわからない。都合のよい女ならばそう扱ってくれなくては、誤解してしまう。

「ほら、そんなところに座ってないで、立って」

 拓海は二の腕を優しくつかむと、日菜子を立たせた。

「で、どうした……っ、おい」

 我慢しようと思っていた涙が目に浮かぶ日菜子を見て、拓海は焦ったようだ。日菜子の両肩に手をおいて、顔を覗き込み様子を窺う。

「気分が悪いのか? なんで早く俺に――」

 そとのき日菜子はドンッと力一杯拓海の胸を押して距離をとった。拓海は驚いた様子で言葉も出ない。

 日菜子は涙目のまま、彼をまっすぐ見据える。

「どうして……どうして、わたしを都合のいいように使うの?」

「え? どういう意味――」

「他の女の子を断るために、わたしを使わないでって言ったの、もう忘れちゃったの?」

 拓海は以前脇坂に飲み会に誘われたとき『日菜子に仕事を教えるから』という理由で、断っていた。そのときも彼に対して抗議をしたけれど、今はそれとは比べものにならないほど胸が痛い。

「わたしを虫除けに使うなんてひどいよ。それならもっと綺麗で周りが納得するような相手を選べばいいじゃないっ!」

 そこまで言い切って我慢していた涙がポロポロと流れ落ちた。

 拓海は必死な日菜子を見て、一瞬驚いた顔をしていたが合点がいったようでがっくりと肩を落とした。そしてほっと安心したように小さく息を吐くと、しゃくりあげる日菜子の顔を覗き込む。

「泣きすぎだ」

 ぷっと噴き出した拓海に、日菜子は怒りをぶつける。

「ひどい。笑うことないでしょ!?」

 誰のせいでこんなことになっているのだと怒りが増す。

「ごめん。でも、なんかお前が盛大な勘違いしているのがおかしくてさ」

「勘違い?」
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