しあわせ食堂の異世界ご飯5
「え? ああ、そうですね」
「まあ、旦那様がご一緒ではありませんし、陛下も気づいてはいなかったので挨拶はなくて問題ないでしょう」
 侍女の言葉に、リズも同意する。うっかり挨拶をしてしまったら、どうなってしまうかわからない。
(もしかしたら、お父さまの娘だから……嫌われてしまうかもしれない)
 大好きなリントとの関係がぎくしゃくしてしまうのはつらいので、知らないままでいたかった。
 もうリントたちの姿は見えなくなったので、隠れている必要はないとリズは椅子に座りなおす。
「ねえ、新しい紅茶をお願いしてもいい?」
「冷めてしまいましたね。すぐにご用意いたしますので、お待ちください」
 侍女がお湯を取りに席を外したのを見て、リズは大きくため息をついた。
「まさかリントお兄さまがリベルト陛下だったなんて……!」
 父親について登城しただけだったというのに、とんでもない事実を知ってしまった。とはいえ、リズがリベルトについて知っていることなんてあまりない。
「お父さまがリベルト陛下の話題を嫌うから、家ではほとんど名前を聞かないし……」
 顔も知らなかったくらいだ。
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