アラサーですが異世界で婚活はじめます
 美鈴の片手を取り、椅子から立ち上がるのを助けながら、フェリクスは美鈴にそう言った。

「……ありがとうございます。フェリクス様。窮状を救っていただいた御恩は、わたくし……」

 貴族令嬢の作法に従い、跪礼(カーテシー)をしようとした美鈴を慌ててフェリクスが止めた。

「駄目ですよ、足に負担をかけては。……堅苦しい礼儀作法など、ここでは無用です」

「……?」

 どのような家柄なのかまだよく知れないにしても、伯爵家のフェリクスがあまりにも自身の身分や、目下(めした)である美鈴の自分に対する振る舞いに無頓着なことに美鈴は内心疑問を抱いていた。

 何か、特殊な事情があるのかもしれないが、相手の家格が分からない今、美鈴にはフェリクスの態度の裏にある事情を想像することはできない。

「では、参りましょうか。お連れの方がびしょ濡れになっては気の毒だ。足元に気をつけて」

 再び美鈴の手を取り、屋敷の外に出ると、通り雨だったのか、雨は既にあがりかけており、お天気雨に変わっていた。

 ところどころ雲間から光が差す中、美鈴を玄関先に待たせて、自ら馬車の準備を終えたフェリクスが車寄せに向かって優雅に馬を御して近づいてくる様は、亜麻色の髪が天からの光に輝いて何とも言えない美しい情景だった。

 美鈴を二人乗りの一頭立て四輪馬車の席に乗せ、フェリクスは自ら馬の手綱を取ってはじめはゆっくりと、徐々にスピードを上げながら馬を走らせる。

 雨よけのため広げた折り畳み式の幌から空模様をうかがうと、雲間からちらちらと光と小粒の雨が降り注いでいるのが見える。

 雲間から差す幾筋もの天から降り注ぐ光の柱は、いくら見続けても見飽きないほど、美しいと美鈴は思った。

「……美しいですね」
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