執着求愛~一途な御曹司の滴る独占欲~
「き、昨日は酔っていたの。雅文だってそうでしょ?」
そう言いながら私が視線を泳がせると、雅文はまっすぐにこちらを見据え「俺は違う」と否定した。その痛いくらい真剣な視線に呼吸が苦しくなる。
「俺は酔ってなかった」
そんなこと言わないで。勘違いしそうになる。昨夜のことは酔った勢いでも一夜の気まぐれでもなく、雅文が心から私が欲しいと求めていたんじゃないか、なんて都合のいい解釈をしてしまいそうになる。
そんなこと、あるわけないのに。
「……帰る」
未練を振り払うように短く言って立ち上がったけれど、私の靴は雅文の手の中にあることに気付く。
一瞬どうしようか迷って、かまわずそのまま帰ることに決めた。ベッド脇に置いてあったタオル地の白いスリッパを足先にひっかけ雅文の隣を通り過ぎる。
「ちょっと待てよ」
私を引き留めようとした雅文の腕を振り払って客室の出口へと走る。
ここまでむきになって逃げられるとは思っていなかったのか雅文は一瞬虚を突かれたあと、私のことを追いかけようとした。
「伊野瀬コーポレーションの御曹司が、そんな恰好で廊下に出るの?」
出口のドアに手をかけた私が振り向いてそう言うと、雅文はバスローブ一枚の自分の体を見下ろして足を止める。
その隙に私は廊下に飛び出し、全力疾走でその場から逃走した。