執着求愛~一途な御曹司の滴る独占欲~
ホテルのエントランスを抜け、ようやくほっと息を吐く。外に出て後ろを振り返ると、そこには立派で豪華なホテルがそびえ立っていた。
自分のお給料では一生泊まることのないような高級ホテルだ。
少し前まで、あの上層階のスイートルームにいた。あんな場所で雅文に抱かれたんだ……。
付き合ってもいない女と一夜を過ごすためにこんな素敵な場所を用意してくれるなんて、さすが伊野瀬コーポレーションの御曹司だな。と小さく笑ってから、どうしようもなく寂しくなった。
まるで魔法が解けたシンデレラみたいだ。
雅文は手の届かない存在なんだ、住む世界が違うんだと、あらためてつきつけられたような気がする。
ひとり肩を落としとぼとぼと歩いていると、ふわりと香ばしいにおいが鼻孔をくすぐった。
顔を上げると国内外のブランドショップやレストランが入った新しい商業ビルの一階にコーヒーショップが見えた。
高級感の漂う街の雰囲気に馴染んだ『INO‘S COFFEE』というシンプルでモダンなロゴ。私と同じくらいの年齢の女性が、店名のロゴの入ったカップを持って通り過ぎていく。