real feel
司会者の言葉を聞いた会場の列席者たちが少しトーンダウンしたように思える。
シーンと静まり返った訳ではないし、全員が注目してる訳でもないだろうし……。
私は、私の言葉で、今の素直なお祝いの気持ちを伝えるのみ。
大好きな、菜津美とイチにぃに。

先ず新郎新婦と宮本家、有田家の皆様にお祝いを述べて。
一応紙に書いてきたスピーチの文章を眺めたけど、畳んでそのまま手の中に収めた。
紙の上の言葉より、今の私から出てくる生の言葉を伝えよう。

「菜津美、イチにぃ。結婚おめでとう!お二人とは"シャイニング"という同じ会社に勤めていますが、菜津美は私の同級生で小学生からの親友です。そして宮本課長は私の上司でありながら、従兄でもあります。だから今日は普段通りに『イチにぃ』と呼ばせてください」

会場にどよめきが……。
今日は教事1課と経理部のメンバーがいるけど、私とイチにぃの関係を知らないから驚いているんだろう。

「菜津美とは中学時代特に仲が良くて、周りの人たちから『2人は似てる』なんて言われたりもしていました。雰囲気とか性格が似ていたんだと思います」

シャイニングの人たちにしてみれば信じられないだろうな。
菜津美と私が似ているなんて。
『どこが?』なんて声も聞こえてきそう。

「同じ高校を目指して頑張っていたんですが、私の一身上の都合で勝手に進学先を変更してしまったんです。それ以来、菜津美とは疎遠になってしまいました」

それでも菜津美は私を気にかけてくれていたけど、私からは一切連絡を取ろうともしなかった。

「私は商業高校を卒業してシャイニングに入社しましたが、その4年後に大学を卒業した菜津美と同じ会社で再会するとは夢にも思わなくて、驚きました。菜津美は昔と変わらず明るくて笑顔が眩しくて、昔とは変わってしまった私はつい目を背けて菜津美を避けてしまったんです」

変わってしまった自分を、菜津美に知られるのが辛かったから。

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