real feel
──8月7日。

今日は翔真の誕生日。
直前の土曜日、うちに翔真と吉田先生を呼んで盛大にお祝いしたし、日曜日には2人きりで甘い時間を過ごした。

平日だし大した事はできないけど、翔真がどうしても私と2人きりの時間を過ごしたいって……。
私だってそう思っていたから、2人ともノーザン申請で定時になったら退社の予定。

今日はそう急ぎの仕事もなく、外勤も入ってなかったから問題なく定時で上がれるはず。

…………そう信じていた。

定時まであと30分。
明日の準備をしながら、翔真にメールしてみようかなって思っていた私の元に突然の来訪者が。

「蘭さん、お久し振り。元気で頑張っているようだね」

その人物は、私の過去の苦い記憶を伴って現れた。

「木原課長!?……ご無沙汰しています。どうして、ココに?」

あまりにも予想外の出来事に、ただただ驚くしかなかった。

「驚かせてしまったようだね。一時帰国中なんだよ。さっきまで専務に呼ばれていたんだ」

専務に呼ばれて一時帰国中?
なにか向こうで問題でもあったのかしら。

「奥様はご一緒じゃないんですか。美里先輩、お元気ですか?」

「あ、ああ。元気だと思うよ。今日は一緒じゃないんだ。実は蘭さんに頼みたいことがあって来たんだけど、ちょっと付き合ってもらってもいいかな。そうか上司の許可が要るだろう。上村課長に聞いてくるから」

木原課長は上村課長のデスクに行ってしまった。
私に頼みたいことって、なに?
まあ元々は直属の上司だった人だから、協力できることだったら喜んでしますけど。

失恋した相手……とは言っても、私が勝手に恋心を抱いていただけだし。
木原課長にとっては私はただの部下。
だけど5年も同じ部署で仕事してたんだから、親しみくらいはあるよね。

私にとって失恋の痛みは、とっくに過去の遺物と化しているのだ。
だから実際にこうして不意に会ったりしても平気でいられる。
考えてみればあれからまだ1年と数ヶ月しか経っていないのに。
それはきっと、翔真がそばにいてくれるから。

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