real feel
「……もしかして、見ちゃったりとかしなかった?」

………相手する気にもならねぇ。

「忘れ物見つかって良かったですね。もう帰ろうとしてたとこなんで、高柳さんももう用が済んだら出てください」

「あ、差入れにと思って買って来たんだけど、スイーツ。良かったら一緒に食べない?」

「結構です。これから予定が入ってるんで、帰ります。お疲れさまでした」

こいつ本当に何をしに来たんだ。
俺が甘い物好きだって知ってるからって、そんな物で釣られるもんか。

「あ、じゃあこれ持って帰ってよ。モンブランプリンとコーヒーゼリーなんだけど、どっちがいい?どっちも好きだったでしょ。なんならどっちも持ってって……」

ウゼェな、急いでるときにイライラさせんじゃねぇよ。

「夕食に招かれてるので、要りません。今後一切そういうお気遣いは無用です。では」

イラつきながらPCの電源を落とし後片付けもそこそこにして、足早に教事1課のフロアを後にした。


まひろがいないのに何故蘭家に行くのかというと、相談したいことがあると呼び出されたからだ。
まひろが出張の日をわざわざ狙うなんて、父親である蘭先生のことだろうか?
それとも、ただ単に俺に何かを問いただしたいとか?

"これだけは守って"と念を押された約束は、ちゃんと守っている。
一体どんな話し合いになるんだろうか。
さっき会社を出る際に手こずったからな、少し急がねば。
最寄り駅のそばにある老舗和菓子やでお土産を調達し、もう自分の家と変わらないくらいに通い慣れた蘭家への道を急いだ。


──20:50

蘭家での食事と話し合いを終えて、自宅に帰る前にまひろに電話をしようとポケットに手を入れるが……ない。
携帯がないことに今頃気が付いた。

最後に触ったのは、会社のデスクでイチにぃからの電話を受けた時だ。

会社か……。

もしかしたらまひろから連絡来てるかもしれないし、取りに行くしかないな。
面倒だが仕方ない。


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