real feel
なんとも中途半端な気持ちのまま、イチにぃのマンションをあとにした。
主任の車に乗ってからも何を話していいのか分からず無言。
沈黙が痛い……。
窓の外にばかり気をそらすけど、これから何処に向かおうというのか。
しかしドライブはほんの20分くらいで終わってしまった。
着いた場所は、主任の自宅。

「吉田先生はご在宅ですか?」

手土産も準備できてないのに。
気が利かない女だと思われたらどうしよう……。

「父さんなら出掛けてる。夜まで帰らないから話を聞かれる心配もない。特に何もないけど、コーヒーくらいなら淹れられるから」

ちょっとホッとした。

リビングのテーブルで向かい合う。
シーンと静まり返った部屋が、主任と2人きりだということを意識させるけど、重い空気なので別の意味でドキドキする。

「俺と祥平は兄弟だけど、離ればなれで育った。俺が母親に育てられたのはほんの数ヵ月だったらしい。祥平を妊娠してから母が情緒不安定になったため、育児が困難になった。それで吉田の父に預けられたということだ」

「あの、お母さんと吉田先生の関係は?」

「昔からの知り合いで、家族ぐるみの付き合いだったらしいけど。早い話が幼馴染みってことだろう。でも普通に考えてみても赤ちゃんの俺を引き取って育てるなんて、幼馴染みの範疇を超えてるだろ。そう思わないか?」

事情を知らないのに軽々しく返事できないけど、吉田先生がどうして主任を引き取ったのか、不思議だと思う。

もしかしたら……。
私の反応を待っている主任に、自分の考えをそのまま素直に伝える。

「ただの幼馴染みじゃなかったとしたら……。もしかしたらもっと親密な関係だったのかも知れませんね」

「そうだよな、俺もそう思う。父さんはそこらへん詳しく話さないから定かではないけど。話したくなさそうだから、俺も突っ込んで聞けないんだ」

「弟さん、祥平さんとはあまり連絡取ったりしないんですか?年に1回くらいしか会わないと聞きましたけど。あまり仲は良くないんですか」

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