【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
夏の風がさーっと廊下を吹き抜けた。
「衣川さん」
トンと、肩に手を置かれて、
振り向けば音羽くんが立っていた。
途端に走馬灯のように思い出される。
半泣きで道に迷っているあたしの肩をポンと叩いた……あの人。
そうだ。あたし、なんで気付かなかったんだろう……!
”音羽結太郎”くん。
中学生の時、この人に図書館までの道を案内してもらったんだ。
それで図書カードを忘れたあたしに、カードを貸してくれたんだ。(というか、一緒に借りてくれたんだけど)
カードに書かれていた名前が、”音羽結太郎”くん。
フルネームを見てやっと思い出すなんて……。
「その顔、もしかして思い出した?」