【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
***
そして、数日後。
放課後、駆くんはあたしの焼いたケーキをおいしそうにほおばった。
ルイちゃんと、理生くんも一緒に。
「すげーなぁ! 今宵ちゃんって料理も得意なの?」
「いや……あの、お菓子作りだけたまに……。料理は全然で」
「へぇー、いいね、家庭的女子って」
「おい理生、黙って食ってろよ」
あたしと理生くんの間に駆くんが割り込んでほっとはするものの、理生くんとも前よりは喋れるようになってきた気がする。
といっても、まだしどろもどろだけど……。
「今宵も男子に免疫ついてきたと思ったら、まだまともに話せるのは駆くんと彼くらいだね」
「彼?」
理生くんのことかな、と思ったら違った。
「音羽くん」
「あぁ、うん。たしかに喋りやすいかも」
「音羽くんは見た目も中性的な顔立ちだし、静かだし、おっとりしてる今宵と波長が合いそうだよね」
「ルイちゃん、そいつの名前はださないで」
駆くんは、ルイちゃんが握っているフォークごと腕を掴んで、刺さっていたケーキをルイちゃんの口もとに運んでしまった。
「んむっ」
もぐもぐと頬張りながらもルイちゃんは駆くんに文句言いたげな目を向けている。
「もう駆くん! ルイちゃん、大丈夫? お茶……」
お茶を差し出すと、ルイちゃんはすぐに飲み込んでぷはぁっと息を吐いた。
そして「駆くん!!」と喝。
「あはは。でもルイちゃんが悪いんじゃん。俺あいつの名前聞きたくないもん」
なんて自分勝手な……とルイちゃんと一度顔を見合わせてから噴き出した。
だけどなんでそんなに音羽くんの話を嫌がるのかな。
……まだ膝枕のこと怒ってるのかな。
あれは眠かっただけで、音羽くんそんなに悪い人じゃないのにな。