【完】STRAY CAT
……わからない。
どうしてハセが、わたしを好きなのか。
バカにしているわけじゃなくて、本当にどうして好かれているのかわからなかった。
だってわたしは、ハセに何かしてあげたわけじゃない。
蒔はずいぶんとハセに懐いているけど、それがわたしを好きになる理由になんて、到底なりえない。
むしろ吐き捨てる言葉はいつだって冷たくて、無機質で。
「なんで……わたし、なの」
拒絶の色を浮かべているのに、まるで引くそぶりを見せないハセ。
その当たり前のような表情が、怖かった。
「……どうしてだと思う?」
恋愛感情の裏にある、下心ってものが気持ち悪い。
それは何も男女関係に相当する欲だけじゃなくて、卑劣な感情に対してもそうだ。
好きになるってことは、必然的に相手に同じだけの感情を求めようとする。
見返りを求めようとするその感情が、ひたすらに気持ち悪い。
だってそうでしょ?
見返りを求めないなら、告白もしない。
当然付き合うこともなければ、別れることもない。
見返りがあるから、そうやって、ふくらんだ欲望は恋情に隠された状態で満たされていく。
ずっと不思議だった。
どうして「好き」と言うハセは、その言葉だけで何もしてこないのか。
だから、もしかしたら「好き」って言うことで、わたしのことをからかってるんじゃないかなって思ったこともある。
でもその言葉に嘘がないと証明するみたいに、ハセはわたしに優しくしてくれてる。何度も何度も。自分の気持ちをまるでわたしに思い知らせるかのように。
「わたしが聞いたのに聞き返すの?
……質問を質問で返すのって失礼だと思うけど」
「……そういうとこだよ」