【完】STRAY CAT



だって普通、

好きだったら見返りが欲しいでしょう?



なのにたったの一度、「付き合おう」と言われたことすらない。

だけど女の子たちにわたしがハセのことで絡まれていたら、「俺が勝手に好きなだけだから」って、わざわざ言い返してくれた。



「そういう、はっきり言うとこ。

自分に不利な状況になるのも厭わないの見てたら、本当に放っておけなくなる」



「……わたしが遠慮を覚えたら、どうでもいいんだ」



「違ぇよ。

……お前だからこんな風に思ってんだよ」



人はいくら意識したって簡単には変われない。

それでも「ちゃんとしなきゃ」っていう姉としてのプライドが、蒔の前でのわたしを変えていた。



何が正しいのか、自分でももうわからなくなってるから。

こうやってぜんぶ口に出すことで、自分のやるべきことを理解しようとしてるだけで。




「わたし……」



じわじわと、指先から何かがせり上がる。

侵食してくるその痺れが怖くて、まぶたを伏せた。



「誰とも付き合わないって、決めてる」



セピアが、甦ってしまわないように。

もう何度も何度も、自分の気持ちに鍵をかけた。



「蒔のこと、優先したいから。

……付き合うとか、そういうの、無理なの」



ぎゅっと、胸元をつかんだ指先が震える。



どんな返事がかえってくるのかもわからなくてまぶたを上げられずにいたら、ハセがわたしを呼んだ。

いつもみたいに名字じゃなくて、優しく「鞠」って名前で呼ばれた。



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