COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
スマートフォンを机に置くと、ウォークインクローゼットへ向かう。
両開きの扉を開くと、ハンガーにかけられた洋服が並んでいる。
その中心、こちらに向けられてかけられているワンピースが目に入った。
少しくすんだラベンダー色。
プレーンなストレートの形に、肘まであるシフォンの袖。
“「やっぱりコレだよね!」”
彼とのデートの日に着て行こうと決めていた。
私の一番のお気に入りのワンピース。
これを着て、彼の隣に並ぶ姿を何度も思い浮かべては幸せに浸っていた。
机の上、画面が点けっぱなしになった
スマートフォンを再び手にすると返信を打った。
チャット画面に表示された私の返信。
すると間髪入れずに彼が既読したというマークがメッセージの下に表示された。
スマートフォンを手に握りしめたまま待っていなければ、
こんなスピードで読まれることは明らかに不自然なタイミングだった。
そんな彼の姿が浮かぶと、またじわっと目頭が熱を持つ。
ぐにゃりと視界が歪むと、まるでその時を待っていたかのように大粒の涙が勢いよく零れる。
《ごめんなさい、少し時間をください》
その下に、わかった、とだけ短い返事が浮かぶのを見ると、私は手にしたそれをベッドへ投げつけた。
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*BLACK COFFEE