COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

楽しそうにくるくると変わる彼の表情がそれをさらに増長させる。


その時、ふと彼の視線がこちらを向くとガラス越しに目が合った。

彼は目を見開くと、まるで時が止まったかのように固まった。

“駄目”
何故かその時、私の脳内で警笛(けいてき)が鳴った。

彼から目を逸らし、咄嗟に(きびす)を返した瞬間。

『本郷さん!!!』

甲高いベルの音と共に、その声が私を呼んだ。
その声にまた、きゅっと締め付けるような痛みが心臓に走る。

やってしまった。

店の外からじっと見つめていただけでも充分怪しいのに、まして立ち去ろうとするなんて。
完全に不審者だ。

気まずさに恐る恐る振り返ると、店の入り口に立つ彼を見た。

逆光していても、わかる。
彼は私の予想と反して、まるで愛おしいものを見つめるように笑った。

『こんばんは、いらっしゃいませ!』

その笑顔に締め付けられた心臓は更に圧迫される。

悲しいわけでもないのに泣き出したくなるような、甘くて切ない痛み。
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