COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

*

改札を出ると、これぞ都会の 喧騒(けんそう)というような光景が目の前に広がっている。
皆がそれぞれ、自分の時間を過ごしている空間を縫うように目的地へと歩き始める。

折角だし、帰りにどこかで晩御飯でもテイクアウトして帰ろう。

そんな事を考えながら、身体から今にも溢れてきそうな緊張から意識を逸らした。

駅の出口を出てすぐの所にある露店の花屋から、雨の香りに乗って花や葉の青い香りが漂ってくる。
その傍に立つ見慣れた姿が目に入ると、心臓がぐっと掴まれるような嫌な感覚に襲われた。

その姿はすぐに私に気付くと、優しく微笑んだ。
それはどこか寂しそうな、困ったような不思議な笑顔だった。

「…お待たせ」

『すみません、突然』

彼は礼儀正しく会釈すると、さっきの笑顔とは打って変って明るい声で続けた。

『最近、部屋の片付けしてるんです。

断捨離にハマってまして』

「え、そうなんだ。充分綺麗なのに」

けろっとした言い草に拍子抜けをしそうになったが、思ったよりも元気な姿に少しだけ気持ちが軽くなる。

『はい!これ』

彼はニコリと笑うと、小さな茶色の袋をこちらへ差し出した。
それを受け取ろうとした瞬間、彼がこちらを覗き込む。

『昭香さん、これから少し時間ありますか?』

彼の真意が読めずに、言葉に詰まっていると更に彼は軽快な口調で続けた。

『ちょっと買い物に付き合ってもらえませんか?』
< 389 / 449 >

この作品をシェア

pagetop