COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
彼は一見 余裕綽々に見える所があっても、きっと彼を近くで見ている人は知っている。
誰より仕事に真摯に取り組む姿や、クライアントに対する誠実さ。
数字に追われながらもそれを貫くことが、どれだけ苦しいか。
きっと私の想像を絶するものだろう。
再びネクタイへ視線を戻すと、彼の落ち着いた声が降ってくる。
『…どれがいいと思いますか?』
「え?」
再び彼を見上げると、彼は眉を下げて微笑んだ。
『毎回自分で選んでるので、もう引き出しが尽きちゃいました』
「あー、なるほど…」
自分の物ならともかく、人の物ともなれば責任が重大過ぎる。
しかも目の前に並ぶ数々のネクタイは手に取らなくても質の良いものであることは一目瞭然だった。
もちろん値段もそれなりの物ばかりだろう。