COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
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いつもの電車に乗って、いつも通り改札を抜ける。
けれど目的が彼に会う為というだけで、心なしか足取りは軽い。
雨の日は皆まっすぐ家に帰るのだろう。
今日は駅前で飲み歩く人も人もまばらだ。
少し歩いた先を曲がり路地に入ると、雨の中にぼんやりと浮かぶ店の明かりが見えた。
店の少し前で立ち止まると、雨風で乱れた髪の毛に手櫛を通す。
メイクも直した方がよかったのかもしれないと思い急いで鞄の中やポケットを探るが、手鏡は見つからない。
こんな時、私はつくづく“女子力”というものが足りていないと痛感する。
そんな事を考えていると、鞄の中に差し入れた手にスマートフォンがこつんと触れた。
一瞬頭を過ったその顔は、きっと今一番思い出したくない顔。
思い出してはいけない顔だ。
それ打ち消すように前を向き直ると、店の前へと歩を進める。