COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
残業のおかげで退勤ラッシュこそ免れたものの、雨の香りが立ち込めるホームにはまだまだ人が多い。
《今日、お店に来られませんか?》
電車を待つ行列に並ぶと、チャット画面に表示された春田くんからのメッセージをじっと眺める。
《行けるよ。これから帰りの電車に乗るね》
メッセージを送信してすぐに既読を知らせるマークが表示されると
間髪入れずに可愛らしい犬のイラストが画面に浮かんだ。
イラストの下には、“待ってるね”と書かれている。
ふと昼間の春田くんの笑顔を思い出して、心がじんわりと温かくなった。
スマートフォンから顔を上げると
人混みとホームの屋根の間、雨の降りしきる夜空をぼんやり眺める。
彼はいつだってこんな風に誰かと想い合うことが
こんなにも幸せで楽しい事だと、私に教えてくれる。
彼の隣に並んでも、恥ずかしくない自分でいたい。
再び画面の中、ずらりと並ぶ名前の中に視線を落とす。
一つ息を吐き出すと、その名前の隣に表示された削除のマークを静かに押した。