彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
「やったら何か俺にいいことあんの?」

ふと初めて聞いてみた。

「んー、何がいい?」
「なんだろうなー、何もねえなー。」

そこへおばさんが定食を持ってきてくれた。

定食のど真ん中に置かれた小鉢が俺にアピールしてくる。

鶏皮ポン酢!
やったー、昨日に続いて今日も鶏皮ポン酢入ってる!

「ごめんねー、昨日と全く一緒だわ。」

おばさんが苦笑いをする。

いやいやいや!

俺は首をブンブン振った。

「全然いいっす、毎晩これでいいっす。」
「ほんとー?そう言ってくれると助かるー。」

おばさんの笑顔が変わった。

本当です。
もう毎晩これでいい。
できれば、ササミも入れて欲しいけど。

幸せだ。

俺はつい定食を前に、会話が吹っ飛んでしまったことに気付いた。

沙和は相変わらず数学の問題に目を落として考えてる。
相当悩んでる。

やってあげてもいいんだけど、宿題やっても俺の株が上がってる気がしないんだよな。

なんかいいことないかなー。

ふと壁に貼られた鶏肉の部位説明の絵が目に入った。

ムネ肉。
パッと矢野美織の乳が頭に浮かぶ。
あ、そうだ、俺、明日返事するって言ったんだ。
やっべ、忘れてた。

俺にとっていいこと。
とりあえず「俺の『彼女』を引き受けてもらう」だ。

「あ、さっきの何でもいいの?」

俺の問いかけに、沙和がノートから顔を上げる。

「やれることなら。何がいい?」

相変わらずクールだ。
い、言うんだ、俺。

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