素直になれない夏の終わり
おそらく津田の言う通りで、家庭科の教師から夏歩の授業中の様子までは聞いていなかったのか、積極的に包丁を持たせろとの言葉に従って包丁を持った夏歩に、調理が始まってしばらくしたところで、全ての班をまんべんなく見回っていたはずの担任が夏歩達の班から離れなくなった。
夏歩達のと言うよりも、主に夏歩に目が届く位置から。
「あの時の先生、正しく“固唾を飲んで見守る!”って感じだったよね」
「……顔が凄く怖かったし、ハラハラしてるのが伝わってくるからやりづらかった」
「まあ、ハラハラしてたのは先生だけじゃなく俺達もだったけどね。絆創膏出して待機してた子もいたし」
その絆創膏の子は確か、夏歩が希望したキャベツ係りになった女子だった。
夏歩が切る前の人参を洗っているところに駆け寄ってきて、「絆創膏、五枚はあるから!」と言いおいて去っていったのだ。
あとで聞いた話によると、夏歩と同じ班になったので、これは絶対に必要になるとふんでわざわざ用意したのだとか。そして同じ理由で、津田も絆創膏を三枚持っていた。
そんなに使うわけがあるか!とその時は思ったけれど、最終的になんだかんだで津田から一枚、キャベツ係の彼女からは二枚使わせてもらうことになった。