素直になれない夏の終わり
嫌そうに顔をしかめても、もちろん美織は許してくれない。
いつまでも駄々をこねているわけにもいかないので、夏歩は諦めて体を起こした。
「こっちまで来られそう?」
テーブルを指して問いかけられ、夏歩はコクっと頷いてベッドを降りる。
本当は起き上がるだけでも体が辛かったけれど、何とか気力を振り絞ってテーブルにつく。
夏歩の前に、津田はお粥を入れた器とレンゲを置いた。
薄っすらと黄色みがかった玉子粥からは、湯気に乗ってカツオ出汁のいい香りが漂ってくる。
本当ならばそこで多少なりとも食欲を刺激されるのかもしれないが、今の夏歩にはその美味しそうな香りすら辛い。
食欲が刺激されるどころか、元々ないものが更に減退していくよう。
「……どうしても、食べなきゃダメ……?」
「食べた方が早く治ると思うわよ」
うう……と悩ましげに唸って、じいっとお粥を見つめた夏歩は、やがて諦めたようにレンゲを手に取った。