素直になれない夏の終わり

相変わらず、鍵を使って我が物顔で部屋に入り込み、夏歩が寝ている間に朝食と同時進行で作り上げられるお弁当。

ランチバッグから取り出した二段重ねの弁当箱は、蓋を開ければまずはおかずが目に入る。

綺麗に渦を巻いた玉子焼き、焦げ目のついたウインナー、真っ赤なプチトマト、ポテトサラダに、キュウリと人参を豚肉で巻いた肉巻き。


「さすが津田。今日も張りきってるわね」


美織の言う通り、津田のお弁当はいつだって張りきっている。

スーパーで食材を買い込んで、変わった調味料や香辛料まで揃えて、朝も早くから楽しそうにキッチンに立っている。

たまにスマートフォンのアラームより早く目が覚めることがあるから、そんな時夏歩は、ベッドに横になったままキッチンにいる津田の背中をぼんやりと眺めたりしている。


「日々の何気ない“ありがとう”が大事なのよ」


玉子焼きに箸を伸ばした夏歩に向かって、美織が言った。箸を止めて顔を上げ、夏歩は首を傾げる。


「どうせ、看病してくれたことに対しても、まだちゃんとありがとうって言ってないんでしょ」


意図せず視線が美織から逸れて、図星だとバレてしまった。「ほんと、わかりやすい」と美織は笑う。
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