素直になれない夏の終わり
「おかえり、なっちゃん」
「あ、…………」
「あ?」
「……ああ、えっと……またいたの?」
「何を今更って感じだね」
そう言って笑った津田は、ドアの前に立ち尽くす夏歩からキッチンの方に向き直る。
その背中をジッと見つめ、唐突にまた“あ”の形に口を開いた夏歩は、しばしそのまま固まって、結局声を出さずにそっと口を閉じ、部屋に入ってドアを閉めた。
キッチンの方を向くなり、津田は水を入れたヤカンを火にかけている。
「沸くまで時間あるから、その間に着替えたらいいよ」
うんとも、んーともつかない微妙な返事をしながら、夏歩はハンガーラックまで歩いて行ってそこに鞄をかけ、次にベッドの上から着替えを取って振り返る。津田と目が合った。
「……なに」
ううん、何でもない。と答えた津田は、どこが何でもないんだと言いたくなるほど嬉しそうな笑みを浮かべていた。
でも、本人が何でもないと言うのでとりあえずその笑顔はスルーして、夏歩は部屋を出る。