素直になれない夏の終わり

洗面所で顔も洗ってしまうか、それとも洗顔はお風呂ですることにしてひとまず着替えだけしてしまうか、しばし廊下に立ち止まって左右に視線を動かした夏歩は、結果お風呂場の方のドアを開け、脱衣所で着替えだけ済ませて部屋に戻った。


「ごめん、さっき言い忘れたんだけど、お風呂まだなんだ」

「着替えてる途中で沸いたよ」

「あ、そっか。じゃあ行ってくる?」


後でいい、と答えながら、夏歩は再びハンガーラックに向かって、持っていた服をハンガーにかけて吊るす。

その間キッチンでは津田が、マグカップを出したりなんだりと忙しそうに動いている。

ハンガーラックに吊るした服の皺をなんとなく伸ばしたりしながら夏歩は、どのタイミングでどんな風に言うのが一番自然で、かつ自分が素直にその言葉を口にできるかを考える。

いつの間にか手が止まっていることも忘れて考え込んでいると、「はい、なっちゃん」と声が聞こえた。

振り返ると、湯気の立つマグカップを手にした津田がテーブルの前に立っていて、ヘラっと笑って夏歩を見ていた。
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