素直になれない夏の終わり

大好きなココアで気持ちが緩んだ今ならばどうだろうかと、夏歩は津田を見ながら“あ”の形に口を開く。

“あ”ときたら次は“り”だ。わかってはいるけれど、そもそも口を開いただけで、まだちゃんと“あ”と声に出したわけではない。

止まってしまったら続けられなくなるとわかっていたのに、夏歩はついそこで止まってしまって、口を開けたまま固まってしまって、二人の間に先ほどまでとは違う不自然な沈黙が生まれる。

津田は何も言わなくて、夏歩も何も言えなくて、沈黙のままに時間は流れる。
その不自然な沈黙が気まずく感じ始めた頃、ようやく夏歩は開いた口から声を発した。


「あっと、その……まだ、いたんだ」

「そりゃいるでしょ。まだ夕飯食べてないし」


苦笑しながら答える津田に、「ああ、まあ、そうだよね……」と返して、夏歩はスッと視線を外す。

そんなことが言いたかったわけではないのに、どうしてこうも上手く言えないのか。思わずキュッと眉間に皺を寄せると、津田が「それとも」と言う声が聞こえた。
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